「よし、ふつうなら100万円はするけれど、おいちゃんがあんたの店のアンプを安く作ってやる。それをおいちゃんの最期の仕事にする」
おいちゃんとは、近所の小さな真空管アンプ工場の社長さんのこと。
以前から気になっていたけれど、いつもすれ違いだった社長さんと やっと会えたのはつい先月。
喫茶店なら、うつくしい曲を静かに流したくて いずれは真空管アンプを、と考えていました。でも、おいちゃんに そんな話をしたのは、体を患っていよいよ具合の悪い時だったようです。
それなのに、どんな店かまず見てから話をはじめようと おいちゃんは見に来てくれました。
しかし、具体的な話は 店でコーヒーでも飲みながら― という約束は結局実現せず、数日前に亡くなられました。
音づくりについて息を切らせながら、それでも楽しそうに話をしてくれたのが胸にのこっています。